・方形波応答で、終段パワートランジスタのコレクタ電流波形に生じるオーバーシュートとアンダーシュートは、Cob等の電極間容量の充放電速度不足による高域でのバイアス電圧増に伴う貫通電流である。



・ということについては、“改訂版 最新オーディオDCアンプ”62頁〜72頁に、オシロスコープによる実測写真とともに解説されている。



・その辺、シミュレーターで観る。
・先ずは、±1.3Vp−pの20kHz正弦波入力。



・下の図が出力波形。



・中の図が終段2SA1943と2SC5200のそれぞれのパラのコレクタ電流波形。



・上の図が終段のドライバーである2SA606と2SC959のコレクタ電流波形。



・観るべきは中の図、プラス側とマイナス側のコレクタ電流がカットオフ付近でプラス側とマイナス側の電流がスイッチングし交代する部分。



・アイドリング電流を400mA流すAB級動作なので、この交差する部分はプラス側もマイナス側も電流が流れるA級動作をしている。それ以外はプラス側又はマイナス側だけに電流が流れるB級動作。
・次に、同200kHz正弦波を入力した場合。



・出力波形は綺麗な正弦波200kHz波形。



・が、中の終段トランジスタの電流波形がおかしくなってしまっている。



・プッシュプルのプラス側とマイナス側とも波形の立下りでそのスピードが遅れて、カットオフするB級動作の期間が短くなってしまい、プラス側にもマイナス側にも電流が流れ、殆どの期間でA級動作になってしまっている。



・結果、終段トランジスタのコレクタ電流が、出力波形の形成とは関わりなく増加することになる。




・この辺、“改訂版 最新オーディオDCアンプ”での実測写真と同様で、先生が異常電流増加の原因と解説されている。



・なお、上のドライバーのコレクタ電流波形も電流値が増えるとともに乱れた波形が生じている。
次に、同400kHz正弦波。



・問題の中の上下トランジスタのコレクタ電流値の波形だが、この周波数では上下ともカットオフ期間がなくなり、常にA級動作をしている状態となっており、上下トランジスタのコレクタ電流の平均値は増加してしまう。



・この辺、“改訂版 最新オーディオDCアンプ”での実測写真と同様で、先生の解説の通り、Cob等の電極間容量の充放電速度不足により高域でバイアス電圧が増加するために終段に流れる異常電流となるものであり、方形波応答で見れば立ち上がりのオーバーシュート、立下りのアンダーシュートとして現れる貫通電流となるものである。
・この際、比較のため、MOS-FET 2SJ49−2SK134パワーアンプ兼パワーIVCで同様に観る。
・±1.3Vp−pの20kHz正弦波入力。



・何も問題はない。
・次に同200kHz正弦波。



・プラス側の立下りからマイナス側へのスイッチング時が完全にB級動作になり、逆にマイナス側からプラス側へのスイッチング時はA級動作の範囲が広がっている。



・が、TR パワーアンプ兼パワーIVCに比較すれば上下ドレイン電流のカットオフは期間はしっかりとあり、この程度であれば問題ないだろう。
・同400kHz正弦波。



プラス側からマイナス側へのスイッチング時のA級動作部分がやや回復したが、マイナス側からプラス側へのスイッチング時のA級動作範囲がさらに広がって、この部分では異常電流増加はある程度あるだろう。



・が、400kHz正弦波でこの程度ならまぁまぁだろう。
・この際、SIT(V−FET) 2SJ20A−2SK70Aパワーアンプ兼パワーIVCも観る。
・±1.3Vp−pの20kHz正弦波入力。



・何も問題はない。
・同200kHz正弦波



・中の図、プラス側からマイナス側へのスイッチング時のA級動作の期間が少なくなり、逆にマイナス側からプラス側へのスイッチング時のA級動作期間は増加している。



・が、この程度なら問題ないだろう。

・同400kHz正弦波。



中の図のプラス側からマイナス側へのスイッチング時のA級動作の期間はほぼなくなり、逆にマイナス側からプラス側へのスイッチング時のA級動作期間はさらに増加している。



・が、先生が実測されたV−FET 2SK70/2SJ20によるドレイン電流波形は、これとは比較できないほど凄い波形になってしまっていることに比すれば、この周波数でこの波形は至極優秀。



・プッシュプルドライバーの成果だ。
・となると、このTR パワーアンプ兼パワーIVCも何とかならないか、なのだが、そのために終段パワートランジスタのベース間に1uFのCを加えてみる。
・先ず、±1.3Vp−pの20kHz正弦波入力。



・この周波数では当然何も問題はない。
・次に、同200kHz正弦波



・中の図のスイッチング時のA級動作期間が少し多くなったようだが、1uFのCがない場合と比較すると、素晴らしく改善され、これなら異常電流は殆どない。
次に、同400kHz正弦波



・中の図のスイッチング時のA級動作期間が更に少し多くなったようだが、1uFのCがない場合と比較すると、改善効果は絶大。これなら400kHzでも異常電流は殆どないだろう。



・先生の“完全プッシュプル・ドライバー”でも同様な結果となっている。



・1uFのCを追加するだけで先生の“完全プッシュプル・ドライバー”と同様の効果になる。
・これだけ効果が絶大なのであれば、実機にもこのCを加えるべきではないか。


・が、このCを加えて音が悪くなっては本末転倒。



・なのでCを付けたり外したりして聴いてみる。






・結果、特に悪くなる訳ではないが、付けるとせっかくの音楽の生き生きとしたオーラが微妙に減じるような気が。



・付けない。